
「Sell in May and go away(5月に株を売って秋まで離れよ)」
投資の世界に古くから伝わるこの格言は、本当に正しいのでしょうか。1970年以降56年分のS&P500株価指数と2026年の春相場から、その実像に迫ります。
セルインメイ(Sell in May)とは、「5月に株を売って秋まで離れ、11月ごろに戻るとよい」という相場の格言です。英語ではよく“セルインメイ(Sell in May) and go away”と言われます。
完全な形では“セルインメイ(Sell in May) and go away, and come back on St. Leger’s Day(5月に株を売って、9月の競馬シーズンまで戻ってくるな)”という表現です。
もともとは英国市場に由来するとされ、夏場は市場参加者が休暇に入りやすく、相場が弱くなりやすいという経験則から広まりました。
この格言の意味することは極めて単純です。株式市場では歴史的に:
11月~4月のリターンが比較的高く
5月~10月のリターンが相対的に弱い
傾向がある、という考え方です。
そのため、これを売買ルールにすると:
4月末から5月初旬にかけて株を売る
夏場は現金や短期債券で待機する
秋以降に再び株を買い戻す
という運用手法をとることになります。
なぜそう言われるのかの理由としてよく挙げられるのは以下のような点です。
欧米では夏に休暇シーズンがあり、市場参加者が減りやすく、その結果、売買が薄くなり、上昇モメンタムが鈍りやすいと考えられてきました。また値動きが荒くなりやすいとも言われます。
年初には新規資金、年金資金、ボーナス資金などが入りやすく、春ごろまで需給が良くなりやすいという傾向があることです。一方、夏場は新規資金流入が鈍りやすい傾向があります。
決算や政策イベント、年初の強気見通しなどが株価を押し上げやすい時期と、材料難になりやすい時期があります。そのため、季節的にリターン差が出やすいと説明されることがあります。
では実際はどうだったでしょうか。過去のデータを元に検証してみましょう。
売買対象:S&P500株価指数
検証期間:1970年から2025年の56年間
株価指数を毎年4月末に売り、10月末に買い戻す投資手法を採る
上記投資手法のリターンがプラスなら成功、マイナスなら失敗
結果は下記の図表1の通りです。
[図表1] 株価指数を毎年4月末に売り、10月末に買い戻す投資手法のリターンの推移(単位:%)
(データ出所:Investing.comのデータを元に三井物産デジタル・アセットマネジメント作成)
検証結果をまとめると以下の通りとなります。
成功した回数:56回中17回。割合としては30.4%
この投資手法のリターンの56年間の単純平均:▼1.18%
成功した17回の単純平均:3.17%
この手法が大きなリターンを上げたのは、甚大なイベントが発生した年に多く見られた
- 1973年から1974年の第1次オイルショック
- 1987年のブラック・マンデー
- 2001年から2002年のドットコムバブル崩壊後
- 2008年の世界金融危機
逆に4月末に買って、10月末に売った場合の成功した39回のリターンの単純平均:4.35%
一方、この56年間の年次リターンの単純平均は9.43%となっており、残念ながら4月末に売り、10月末に買い戻す運用手法は、単純な買い持ちの手法より大幅に劣後していると言えます。
「セルインメイ(Sell in May)」は学術的には「Halloween Effect(11月~4月の株式リターンが5月~10月を上回りやすい現象)」とも呼ばれています*。
このHalloween Effectは昔から一貫して存在していたわけではなく、米国や他の先進国市場では20世紀半ば以降にようやく観測されるようになったと言われており、つまりは恒久不変の法則というより、時代によって現れ方が変わる現象として捉えられています。
この現象は市場が常に完全効率的とは限らず、環境変化に応じて効率性が変わるという「適応的市場仮説)」と整合的だという指摘です。
要するに、Halloween Effectは実在する可能性が高いが、普遍的かつ不変のアノマリー(理論やモデルでは合理的に説明できないものの、過去の経験則から繰り返し観測される相場の値動きのクセや規則性)ではなく、歴史の中で出現し変化してきた季節性であると言えます。
また、筆者が行った上記の検証でも、「セルインメイ(Sell in May)」手法が毎年安定して有効だったとは言い切れません。勝った年もあれば負けた年もあり、結果としてはかなりばらつきがあります。そのため、これを絶対的な売買ルールとして使うのは危ういと言えるでしょう。
*Plastun, Alex, Xolani Sibande, Rangan Gupta, and Mark E. Wohar [2020], “Halloween Effect in developed stock markets: A historical perspective” International Economics 161,130–138.
Halloween Effect in developed stock markets: A historical perspective - ScienceDirect
経験的に夏場は「値動きが荒くなりやすいので、慎重に運用するのが適切」だと言われてきました。果たして実際、夏場は値動きが荒くなったのでしょうか?
別名「恐怖指数」と呼ばれるCBOE Volatility Index (略称:VIX。S&P500株価指数のオプション取引から算出される予想価格変動率)の動きを見てみます。この指数の値が高いほど、市場参加者は株式市場の値動きが荒くなると予想していることを意味します。
VIXの1990年1月から2026年5月までの平均からの乖離幅(標準偏差)を表したのが下の図表2です。
[図表2] VIXの長期平均からの乖離幅(標準偏差)。薄青の網掛け部分は毎年の5月から10月。
(データ出所:Investing.comのデータを元に三井物産デジタル・アセットマネジメント作成)
結果は:
1990年1月から2026年5月までのVIXの平均値は19.48
上記期間の毎年5月から10月の平均値からの乖離幅の平均値は-0.0089標準偏差
一方で同期間の11月から4月の平均値からの乖離幅は平均値は+0.0088標準偏差
VIXが大きく上昇するのは予見が困難な甚大なイベントが発生した時
となり、価格変動性の顕著な季節性は見られないことが分かりました。
2026年特有の事情としては、強い企業業績とAI主導の利益成長が季節性やアノマリーを上回って働いている可能性があると考えられます。
4月のS&P500株価指数は10.4%、ナスダック総合株価指数は15.3%それぞれ上昇しました。これは2020年以来の大きな月間上げ幅です。
米国の運用会社Fidelityの調査によると、5月11日時点でS&P500株価指数採用企業の84%は第1四半期の最終利益が事前予想を上回っています*。
一方で、今年は米国の中間選挙年で、過去10回の中間選挙年のうち5回は5月から10月にかけて米国の株価は下落しています**。
したがって、経験則によれば慎重姿勢を採るには一定の合理性がありそうです。更に中東情勢の緊張による原油高と、長引く長期金利高懸念があります。
2026年の実務的な答えは「全面的なセルインメイ(Sell in May)には慎重に。ただ夏場のボラティリティ上昇には備えるべき」となりそうです。
*Jurrien Timmer [2026],”Stock market outlook midyear 2026” Fidelity Viewpoints
Stock market outlook midyear 2026 | Fidelity
**直近10回の米国の中間選挙年(1986年、1990年、1994年、1998年、2002年、2006年、2010年、2014年、2018年、2022年)について、S&P500株価指数の各年の4月末から10月末のリターンを著者にて集計。
「セルインメイ(Sell in May)」は「夏場は相対的に弱くなりやすい、値動きが荒くなりやすい」という経験則としては一理ありそうですが、「毎年5月に売れば儲かる」という意味では必ずしも正しくはありません。
1970年から2025年までの56年間で見ても、この手法が単純な買い持ちを上回ったのは17回(約30.4%)に留まり、これは長期投資家にとっては全面撤退のルールでにはなり得ないことがわかります。
「夏場、やや慎重になるための参考材料」として、リスクを取りすぎているポジションを見直す、グロース株偏重をやや抑える、ディフェンシブ株や高配当株の比率を引上げる、現金比率を引上げるなど、ご自身のリスク許容度に応じたポートフォリオの調整を検討しておきたいところです。
アノマリーや格言を盲信するのは禁物ですが、こうした節目を、ご自身のポートフォリオを見直すきっかけとして活用するのは、賢明な投資家の姿勢だと言えるでしょう。
三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社
投資顧問部長
1989年、日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)入社。市場営業部でマネートレーダー等を担当した後、投信子会社に出向、日本株投信とアジア株投信のファンドマネジャーを務める。その後明治ドレスナー・アセットマネジメントで年金基金向けにグローバル株式の運用を担当。2006年からクレディ・アグリコルアセットマネジメントで日本株運用の責任者。2016年よりシンガポールの日系ファミリー・オフィスにてシニア・ポートフォリオ・マネジャー。帰国後、事業会社の自己資金運用責任者や外資系不動産会社にてCFO代理等を経て2024年6月より現職。「日本人のおカネを幸せにしよう!」がミッション。趣味はバンド活動。
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