
前回のコラムでは、長年投資の王道とされてきた「60/40ポートフォリオ」(株式60%、債券40%)が、近年のインフレ環境下で課題を抱えていることを検証しました。
2022年には株式と債券が同時下落し、分散効果が機能しない事態が発生。そこで注目されるのが「50/30/20ポートフォリオ」(株式50%、債券30%、金20%)です。米国市場データでは、60/40を上回るリターンと低いリスクを実現していました。
では、これを円建て資産で構築したらどうなるのか? 今回は日本の投資家により身近な「年金4資産」を使って検証してみます。
前回のコラムでは下記の米ドル建ての資産を使って検証しました。
株式:S&P500株価指数(配当込み)
債券:米国債のETF(iシェアーズ米国債7-10年ETF)
金(ゴールド):米ドル建ての金価格、1トロイオンスあたり
本稿では円建ての資産クラスとして「年金4資産」を用います。「年金4資産」とは、日本の多くの年金基金が典型的に採用している基本ポートフォリオの資産区分で、「国内株式」「外国株式」「国内債券」「外国債券」から構成されます。
各々の資産クラスが採用する指数は以下の通りです。
国内株式:TOPIX(東証株価指数、配当込み)
外国株式:MSCI Kokusai Index(MSCIコクサイ指数、日本を除く先進国株式、円建て、配当込み)
国内債券:NOMURA-BPI(野村BPI、Bond Performance Index)総合指数
外国債券:FTSE World Government Bond Index(WGBI、日本を除く世界国債インデックス、円建て)
円建ての60/40ポートフォリオの具体的な資産配分は、「国内株式:30%、外国株式:30%、国内債券:20%、外国債券:20%」とします。
●グラフ1:円建て60/40ポートフォリオ構成
●グラフ2:円建て60/40ポートフォリオのパフォーマンス推移(2006年末を100として指数化)
(出所:Investing.com等のデータを元に三井物産デジタル・アセットマネジメント作成)
グラフ2の通り、2006年末にポートフォリオの価値を100として運用をスタートした場合、約20年後の2025年6月末時点でポートフォリオの価値は約2倍の199.4になっております。
●グラフ3:円建て60/40ポートフォリオの年次リターン(2007年~2025年)
(出所:Investing.com等のデータを元に三井物産デジタル・アセットマネジメント作成)
2008年の年間リターンが▼41.2%と大きくマイナスになったのは、世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)に伴う株式相場(TOPIXの年間リターンは▼52.1%)の急落。さらには、大幅なドル安/円高(ドルは円に対して22.6%下落)により、特に外国株式の年間リターンが▼76.3%となったことが大きく影響しております。2018年は前年までの上昇相場の反動で、ほぼすべての資産クラスが下落した年でした。
一方、2022年はコロナ禍後の急激なインフレ率上昇に見舞われた年でした。インフレ急伸を受けた米国連邦制度理事会(FRB)の急速な利上げに伴い長期金利が急上昇したため国内債券は5%強、外国債券は円建てで6%強それぞれ下落するという、債券市場で50年に1回起きるかどうかの事態に見舞われたとともに、株式部分も下落。株式と債券の同時安となった稀な年となりました。
2025年は年初来ドルが円に対して8%強下落し、外国株式と外国債券ともに年初来マイナスのリターンになっているため、ポートフォリオ全体のリターンは小幅に留まっています。
なお、2013年以降、日銀による大規模な金融緩和を受け大幅な円安が続いたため、円建ての60/40ポートフォリオ全体のトータル・リターン99.4%のうち、7.5%は円安の効果になっています。
●表1:円建て60/40ポートフォリオの特性等

前回のコラムでも指摘した通り、60/40 ポートフォリオの最大のメリットは、株式部分が下落する局面において、安定資産としての債券部分、特に国債価格が上昇することによってポートフォリオ全体の下落をなるべく抑えることができること、いわゆる分散効果です。
しかしながら今、以下のような点が問題として挙げられています。
高インフレ期や利上げ局面では、株式と債券が同時に下落することがある(例、2022年)
40%の債券部分が「リスクの割に旨味が少ない」とされる
機関投資家や先進的な個人投資家にとってはリスク分散が不十分とも指摘される
⇒ 先進的な投資家はそのポートフォリオに伝統的な資産に加え代替資産(オルタナティブ資産)を組入れる
その一案としてポートフォリオに金(ゴールド)を加えた、円建ての50/30/20(株式:50、債券:30、金:20)ポートフォリオを作成してみましょう。
具体的には国内株式:25%、外国株式:25%、国内債券:15%、外国債券:15%、金(円建て):20%という資産配分です。
●グラフ4:円建て50/30/20ポートフォリオ構成
●グラフ5:円建て50/30/20ポートフォリオのパフォーマンス推移(2006年末を100として指数化)
(出所:Investing.com等のデータを元に三井物産デジタル・アセットマネジメント作成)
グラフ5の通り、2006年末にポートフォリオの価値を100として運用をスタートした場合、約20年後の2025年6月末時点でポートフォリオの価値は約2.5倍の252.8になっております。
●グラフ6:円建て50/30/20ポートフォリオの年次リターン(2007年~2025年)
(出所:Investing.com等のデータを元に三井物産デジタル・アセットマネジメント作成)
●表2:円建て50/30/20ポートフォリオの特性等
●表3:60/40ポートフォリオと50/30/20ポートフォリオの比較
上記の表の通り、円建ての50/30/20ポートフォリオは同60/40ポートフォリオと比較して、トータル・リターンや投資効率で優位になったことがお分かりいただけると思います。
年率平均リターンは60/40ポートフォリオの4.95%から6.00%に向上
リスク(リターンのブレ)は15.22%から13.57%に低下
結果として投資効率(リターン/リスク)は0.33から0.44に向上
2008年の下落率が、▼41.23%から▼37.43%に縮小
2022年のリターンは▼4.68%から0.16%に向上
今回追加した金(ゴールド)は、市場の混乱期に安定したパフォーマンスを出す特徴があることと、近年の米ドルの信認低下等により価格が堅調に推移していることも奏功しましたが、伝統的な資産である株式や債券に加えて、非伝統的な資産(いわゆるオルタナティブ資産)を追加することの意義は決して小さくないと考えられます。
オルタナティブ資産とは、不動産、コモディティ(商品)、プライベートエクイティ(PE)、ヘッジファンドなど伝統的な株式や債券以外の投資対象を指します。これらをポートフォリオに組み入れることで以下の効果が期待できます。
a)さらなる分散効果
オルタナティブ資産は株式や債券との相関が低い場合が多く、ポートフォリオ全体のリスクを低減する役割を果たします。
b)インフレ耐性の向上
特にコモディティや不動産はインフレ局面で価値が上昇しやすいため、インフレリスクへの対応策として有効です。
c)収益源の多様化
ヘッジファンドやプライベートエクイティなどは伝統的な資産とは異なる収益構造を持つため、ポートフォリオ全体の収益性を向上させる可能性があります。
円建て50/30/20ポートフォリオは、安定性と分散効果を兼ね備えた構成となっており、多くの投資家に適した運用戦略だと考えられます。しかしながら、外国資産に投資する場合は当然のことながら為替リスクがあることに留意が必要です。
最終的には、ご自身の投資目的やリスク許容度に応じて柔軟にポートフォリオ設計を行うことが重要です。50/30/20ポートフォリオはあくまで一つの指針であり、ご自身の状況に合わせた調整を行うことが長期的な資産形成を成功させる道筋となるでしょう。

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